病気ピックアップ

鼠径ヘルニア ― 嵌頓を中心に ―

鼠径部の腹壁(内臓を守る腹部の筋肉や丈夫な皮)のすきまから、腹膜をかぶった腹部内臓(腸や脂肪組織)が脱出する病気で一般に脱腸といわれています。

1.症状

両足のつけね(鼠径部)のふくらみ
立ったり腹に力を入れたときにおこりやすく、多くは臥床、脱力、手で押し戻すなどで引っ込みます。多くの場合痛みはありませんが、ときに、違和感、不快感、痛みを伴うこともあります。

2.注意すること 嵌頓(かんとん)について

鼠径ヘルニアは原則として手術を必要とする病気ですが、鼠径ヘルニアがあってもふくらみや違和感程度であれば、急いで受診する必要はありません。しかしながらまれに(1%:諸説あり)とびだした内臓が戻らなくなることがあります。これを鼠径ヘルニアの嵌頓(かんとん)といいます。緊急処置を要すことがあります。
嵌頓すると鼠径部に押しても戻らない固い腫瘤を触れ、強い痛みがあり、嘔気や嘔吐を伴うこともあります。ふくらみが小さいうちは安全ということはなく、逆に嵌頓率が高いともいわれます。ふくらみや痛みなどの前兆なしに突然起こることもあり、数時間で、脱出した腸管の血流が悪くなり、緊急手術を要することもあります。

嵌頓がおこったとき
急いで救急医療機関を受診することを検討してください。
多くは用手還納(手で圧迫して脱出内臓を腹腔内に戻す)が行われます。専門医(外科、腹部・一般外科)の診療を要することがあります。
脱出からの経過時間が長い時、緊急を含む手術などを検討されることがあります。

3.治療

上記のように嵌頓から腸管壊死、腹膜炎、とすすみ生命危機に陥ることがあるため、原則として待機的に手術を検討します。国内で年間12万件行われる、頻度の高い手術です。
脱出した臓器を腹腔内に戻し、腹膜を切除、縫合する、腹壁のすきまを補強する(多くは合成繊維の網を埋め込む)手術が主に行われ、鼠径部を数cm切って行う方法、腹腔鏡をつかう方法などがあります。担当医と相談してください。

あがの市民病院
外科・副院長
香山 誠司

掲載日:2024年05月31日