病気ピックアップ

アニサキス症

ミシュラン東京と京都で三つ星を獲得した18軒のレストランのうち12軒が日本料理と寿司です。世界に誇れる和食、絶品のお刺身にはリスクがあることをご存じでしょうか?アニサキス症です。ヒトの胃や腸の中にアニサキス線虫という寄生虫が入って起こる病気で、医学的には幼虫移行症に分類され、食品衛生法上は食中毒です。昔は初夏の風物詩で、鮮度や調理に問題のあるシメサバやイカの刺身が原因と考えられていましたが、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケやタラなど一年中見られ、年々増加しています。マスコミが取り上げては不安をあおりますが、しっかり予防して美味しい刺身を楽しみたいものです。

初期症状

運悪く食べた生鮮魚介類にアニサキス幼虫がいて胃や腸に到達すると病気を引き起こします。ほとんどが急性胃アニサキス症で、数時間~10時間程度でみぞおちの痛みや嘔吐を発症します。幼虫が死なずに腸に達すると、ときに10時間~数日以上たって、腸閉塞や重篤な場合には穴があき、腸アニサキス症が発症することもあります。まれにじんま疹などのアナフィラキシー症状を引き起こすことも知られていますが、死亡例の報告はありません。

治療方法

診断と治療に最も有効なのは内視鏡検査です。アニサキスを発見できれば、確実に診断でき、その場で除去し治療できます。効果は絶大で、除去と同時に症状が消失する例がほとんどです。内視鏡で見つけられなくても、CTで腸管のむくみを見つけ、血清抗体でアニサキス感染を証明できれば診断できることもあります。アニサキスの駆虫剤はないので、この場合は対症療法的に鎮痛剤や胃薬による治療になります。

予防方法

よく噛んで、しっかり塩や酢で締めれば大丈夫というのは誤りです。①よく見て取り除く(目視) ②鮮度に気をつけ内臓を食べない ③-20℃で24時間以上の冷凍 ④70℃以上、または60℃なら1分の加熱。これらによりほぼ予防できるとされています。しかし何の処理もしていない新鮮な魚の味は格別です。私も釣った魚を自分でさばきますが、最後の砦はとにかく目視です。老眼鏡をかけ、細心の注意を払ってアニサキスを見つけ出し、除去しています。

その他注意すべきこと

アニサキス幼虫は、魚の鮮度が落ちるほど内臓から筋肉に移動するので、鮮度がよければ心配ないとされていましたが、必ずしもそうではありません。アニサキス幼虫は、魚種ごとに内臓と筋肉の分布が異なるというデータもあります。タイやノドグロ、金目鯛では内臓に結構な頻度でみられますが、筋肉にはほとんど見られません。また、ヒラメやキスなどこれまで安心と考えられていた白身魚でも発生が見られます。したがって大事なことは魚種や鮮度に関係なく予防することです。食中毒の40%がアニサキス症、その半数は鮮魚店や飲食店で起こっているので、完全に予防することは不可能です。しかしマスコミには、いたずらに危険をあおらずに、安心して食べるための正しい知識や予防法を世界に発信し、和食や寿司文化の素晴らしさをしっかり後世まで伝えて欲しいものです。
参考:厚生労働省、農林水産省、東京都感染症センターHP

村上総合病院
副院長・消化器内科部長
杉谷 想一

掲載日:2023年03月01日