心不全
高齢者が田植えなどの農繁期に多く発症する病気として、心不全があります。心不全とは、『心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。』(2017年10月、日本循環器学会)と定義されています。我が国の循環器疾患の死亡数は、癌に次いで第2位となっており、心不全による5年生存率は50%と予後についても決して良くありません。ただ、その事実と心不全の怖さ(例えば、完治しない等)については、あまり知られていないのが現状です。また心不全は、高齢化とともに罹患数は右肩上がりで、2030年には130万人を超えることが予想されています。心不全は一度発症すると、初期は緩徐に進行しますが、何度かの大きな心不全発作を繰り返しながら、終末期は急速に病状が悪化し、死亡に至ります。心不全のガイドラインが2018年に改訂されました。息切れやむくみなどの症状のある状況はもちろん、症状のない弁膜症や不整脈、狭心症などの心臓病やその原因となる高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満、喫煙なども心不全に含めて、積極的な介入が開始されました。皆さんも普段から塩分制限や適度な運動、禁煙、家庭での血圧測定などを行い予防に努めるとともに、検診やドックでの定期的な心電図や胸部レントゲン撮影により、早期の発見に努めることをお勧めいたします。
初期症状
心不全は現在ステージA~Dまで4段階に分けられています。ステージAは高血圧症や脂質異常症、糖尿病、肥満などの心臓病発症リスク状態です。ステージBは心臓弁膜症、狭心症、不整脈、心筋症などの心臓病があるがコントロールされた状態です。ステージA、Bは無症状です。ステージCになり始めて症状が出ます。ステージBでの心臓病の進行や疲労、塩分、水分過多、感染症の併発などにより、息切れや足や顔面のむくみが生じます。また、数時間単位で急速に呼吸困難が悪化し、救急搬送されることもあります。ステージDは心不全発作を繰り返し、最大限の治療をしても息切れやむくみのコントロールが困難な状態です。
予防・治療方法
心不全の予防は、まずは塩分制限、禁煙、適度な運動など生活習慣の改善です。血圧や血糖値管理も重要です。一度、心臓病を起こした方は、最適な薬物治療やカテーテル治療、外科的治療をお勧めします。また再発や増悪を起こさないように適切な治療の継続も必要です。不幸にして心不全を発症してしまった方は、利尿剤や心不全治療剤(ベータ遮断剤、ACE阻害剤など)で治療を行い、ステージDまで進行した場合は、特殊なペースメーカーや補助人工心臓、心臓移植などの先進医療を検討することもあります。
その他注意すべきこと
心不全は気づかないうちに進行し、発症して初めて心臓病が分かることもあります。早期発見として、息切れにより同年代の人と同じ速さで歩けない、階段を昇るだけで息が切れる、脛の前や足の甲を押すとへこみができる、脈に不整があるなど気になる症状がありましたら、かかりつけの医師にご相談の上、BNP採血や心臓超音波(エコー)検査などを受けられることをお勧めします。ここ数年、弁膜症や不整脈のカテーテル治療が進歩し、高齢や合併症で外科的心臓手術が困難であった場合でも、治療が可能になった病気もあります。まずは、気になる症状がありましたら、かかりつけの医師にご相談ください。
掲載日:2020年06月07日